バイエル薬品大動物シンポジウム 2019
芳賀 聡 先生
講演2

疾病予防のためのビタミンE再考~ストレス・免疫・代謝との関連性~

農研機構 畜産研究部門 草地利用研究領域 放牧家畜ユニット 主任研究員 農学博士
芳賀 聡 先生

スライド1:ビタミンE ≒α-トコフェロール(α-Toc)
スライド2:「α-Toc」はウシの健全性と生産性に関与する
スライド3:「α-Toc」はウシの健全性と生産性に関与する
スライド4:「α-Toc」はウシの健全性と生産性に関与する

8種類あるビタミンEのうち、動物が体内に主として蓄積できるのはα-トコフェロール(α-Toc)のみである。その機能として特に有名なのが、抗酸化作用と遺伝子発現の調節作用だ(スライド1)。家畜において慢性的なα-Tocの欠乏で起こるリスクは何か。白筋症になり急死するケースもあるが症例報告数は少なく、むしろ生産性や健全性に関わっている場合が多い。例えば第四胃変位を発症する牛は、周産期の血中α-Toc濃度が非常に低いことや(スライド2)、分娩前の同濃度が低いほど胎盤停滞の発症リスクが上がるということも報告されている(スライド3)。また、子牛にワクチンを接種する際の血中α-Toc濃度が低ければ抗体価は上がりにくく、高ければ上がりやすくなるなどの関連性もわかってきた(スライド4)。ここではビタミンEにフォーカスし、牛の疾病予防に関する話題を紹介する。

ビタミンEを活用した育成子牛における輸送ストレス緩和とBRDC予防戦略

スライド5:トラック輸送ストレスと末梢血免疫機能
スライド6:トラック輸送ストレスと呼吸器局所免疫機能(BAL実施)
スライド7:BRDC関連細菌の浸潤リスク
スライド8:輸送ストレスによるBRDC発生フロー
スライド9:SRB1により副腎皮質に取り込まれたα-Tocの作用説
スライド10:輸送前のα-Toc補給による期待効果
スライド11:材料と方法

輸送は飼養管理の大きなストレッサーとなる。子牛を2時間およそ56㎞の輸送にかけた実験では、平地輸送よりも山岳輸送の方が血中コルチゾール濃度が上がり、ストレスが強くかかっていることが報告されている。免疫細胞に関しては、例えば好中球や好中球-リンパ球のN/L比を見ると、輸送後、コルチゾールの上昇が止まってから上がってきており、時間差で変調を来していることがわかる(スライド5)。4時間およそ100㎞の輸送で調べたところ、肺の局所にも免疫機能の変調が起きていた。輸送ストレスはBRDCにおいても重要な発生要因である(スライド6)。臨床的に健康そうに見える子牛においても鼻腔には相当数の病原菌が潜んでいるが(スライド7)、輸送を経て免疫と病原体のバランスが一気に崩れることで、日和見感染が起こり、増殖、発症、感染拡大へとつながる恐れがある(スライド8)。

BRDC予防のためにも輸送ストレスの対策は重要だが、α-Tocはコルチゾールのレベルを抑制するという報告がある(スライド9、10)。輸送前の2週間、α-Tocを補給した実験では(スライド11)、血中のα-Toc濃度は補給区で上がり、徐々に下がっていったが、1週間くらいは高い状態がキープされた。輸送するとストレスにより体温や血中コルチゾール濃度、N/L比は上がるが、全ての項目において補給区では未補給区に比べ、有意に上昇が緩やかだった。IFNγとIL4の産生量は急激に下がるが、補給により下がり具合も抑えられ、輸送の3日後に見られたリンパ球のアポトーシスも有意に抑制できた。補給により輸送前の増体量も高く、輸送後も未補給区に比べて増体を高く維持でき、生産性においても効果があることがわかった。

ビタミンE補給を対策の選択肢に

スライド12:材料と方法*前試験から期間50%短縮・容量75%減量
スライド13:輸送前のα-Toc補給による期待効果を確認!
スライド14:輸送ストレスによるBRDC発生フローを遮断
スライド15:選択肢を増やし最善策を~ビタミンEを見直す~

これらを現場に応用しようとした場合、なるべく安く簡単にできた方が良い。α-Tocの容量を75%カットし、期間も1週間にして調べたところ(スライド12)、いずれの項目でも未補給区に対し有意な効果が見られた。以上、輸送前のα-Toc補給による期待効果を確認し(スライド13)、輸送ストレスによるBRDC発生フローを遮断できる可能性が見出させた(スライド14)。α-Tocの製剤は100IUで3円ほど。実験データから200kgの育成子牛に1日1kgあたり10IU与える場合、1日60円かかる。1週間なら420円。コストカット版であれば1週間に1頭105円となる。この費用をかけられるかどうかは現場の事情にもよるだろうが、輸送ストレスに限らず、除角や去勢などの予定されるストレスへの対策として大きな価値があると考える(スライド15)。

高泌乳牛の周産期病リスク因子「低ビタミンE血症」のメカニズムに迫る

スライド16:避けて通れない「分娩」と周産期疾病リスク
スライド17:周産期に起こる低α-Toc血症化
スライド18:低α-Toc血症化とα-Toc摂取量の関連性
スライド19:低α-Toc血症化とα-Toc摂取量の関連性
スライド20:乳牛に分娩ストレスがかかる
スライド21:周産期乳牛のα-Toc動態
スライド22:周産期乳牛の肝臓中遺伝子発現量の変化
スライド23:周産期乳牛の肝臓中遺伝子発現量の変化
スライド24:周産期乳牛の肝臓中遺伝子発現量の変化
スライド25:泌乳量と乳中α-Toc濃度の推移
スライド26:乳腺組織におけるmRNA発現量変化

乳牛の疾病リスクは分娩から数日間が最も高いというデータがある(スライド16)。母牛の血中α-Toc濃度は、初乳に大量に分泌されるので分娩後は低値を示すと言われているが、果たして理由はそれだけだろうか。調査したところ、分娩の2週間ほど前から顕著に低下し、分娩後徐々に回復していった(スライド17)。これは乾物摂取量が下がるためだと考えられ、分娩まではα-Toc摂取量と血中濃度の変化がほぼ一致する。分娩後はα-Tocの摂取量も上がるが、3~4日間は血中濃度が下がり、その後も追いついてこない(スライド18、19)。分娩によって血中のコルチゾール濃度、N/L比やTBARS濃度が大きく上昇してくることから(スライド20)、乳牛にとって分娩ストレスが非常に大きいことがわかり、α-Tocが酸化ストレスを抑える抗酸化物質として消費されていることが推察される。

分娩前後で肝臓を連続的に微量採取し調べた実験では、α-Tocの摂取量も血中濃度も下がっているのに、肝臓中の含量はあまり下がっていなかった(スライド21)。遺伝子で調べたところ、肝臓からα-Tocが血中に分泌する際に大事な役割を果たすαTTPやAFMの発現が、分娩時、急激に抑制されていた(スライド22)。追加実験として分娩後3日目のサンプリングも行ったところ、αTTPの発現が抑制されている期間が続いており、肝臓にあるα-Tocが血中に放出されていないと考えられる。

他の遺伝子発現を調べたところ、小胞体ストレスと呼ばれるものの肝臓でのマーカーは全て上がっている(スライド23)。特に細胞死が起きるほどのストレスがかかっている指標であるCHOP10や急性期マーカーのハプトグロビンが上がっている。逆に肝臓の基本機能であるアルブミンの合成や抗酸化酵素のSOD1、カタラーゼなどは、αTTPと同じように下がっていて(スライド24)、分娩時に重要な肝機能に関係する遺伝子の発現が抑制されることがわかった。すなわち、分娩ストレスによって肝機能の低下が起きて重要な遺伝子の発現が下がり、肝臓からα-Tocの分泌が抑制されることも、周産期のα-Tocの低血症化に関わっているのではないかと考えている。

一方で、初乳に放出されるα-Tocが多いのも間違いない(スライド25)。乳腺移行率から推定すると、分娩直後の初乳におけるα-Tocの移行率は1.3%ほど。それに比べて常乳は0.05%で、およそ20倍も違う。乳腺では何が起きているのか、バイオプシー法で調べた。分娩時は血中からα-Tocを取り込むため、例えばSRB1の乳腺での発現が高まるのではないかと仮説を立てたが、結果は全くの逆で下がっていた。乳動脈からSRB1を使ってα-Tocを取り込む経路はあまり関係ないのかもしれない。これにより、αTTPに関しては、同じように特異結合するTAPがα-Tocの結合を競合しあっているのではないかと推察している(スライド26)。

疾病のリスク低減に向けて

スライド27:本研究から考える、栄養生理学的な展望

栄養生理学的な展望として、この遺伝子発現をコントロールする栄養素を見つけ、そこからα-Tocの体内動態を改善していくことが、対策の一つとして考えられる。

例えば子牛であれば、肝臓から血中へのα-Tocの分泌は制限されていたが、肝臓のαTTPやABCA1の発現を上げる栄養素が見つかれば、α-Tocとダブルで補給することによって、より高い効果が期待できるだろう。実際、牛ではないが、αTTPの発現を上げる栄養素にはいくつか報告があって、現在それを使って試験をしているところだ。

乳牛では、分娩によるストレス・ダメージが肝機能を低下させ、α-Tocの低血症化に関わっているが、例えば肝臓機能を賦活化させるような機能性物質とα-Tocの分娩前補給を合わせることで、大幅にリスクを回避できる可能性もある。こちらも肝機能を賦活化させる物質を探索しながら研究を進めている。今後、良い研究結果が報告できるよう努めていきたい(スライド27)。

まとめ

  • 育成子牛の輸送ストレスに対しては、輸送前のα-Toc補給が緩和効果を発揮する。
  • α-Tocの補給は、アポトーシスの抑制や増体の維持、BRDC予防への効果が期待できる。
  • 周産期のα-Toc低血症化には、分娩ストレスによって肝機能の低下が起きて重要な遺伝子の発現が下がり、肝臓からα-Tocの分泌が抑制されることが関わっていると考えられる。
  • 遺伝子をコントロールする栄養素を見つけ、α-Tocの体内動態を改善していくことが、栄養生理学的なα-Toc低血症化の対策の展望として考えられる。
  • 乳牛では、肝機能を賦活化させるような機能性物質とα-Tocの分娩前補給を合わせることで、α-Toc低血症化のリスクを回避できる可能性がある。