講演レポート

バイエル薬品 大動物シンポジウム 2017
講演3

「臨床獣医師が考える最適な子牛飼養管理~鹿児島 曽於地区編~」

曽於農業共済組合/叶 有斗 先生

子牛の飼養管理からの呼吸器病対策

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スライド1:事例紹介イメージスライド1:事例紹介 スライド2:呼吸器病・発症状況イメージスライド2:呼吸器病・発症状況 スライド3:材料及び方法イメージスライド3:材料及び方法 スライド4:結果 診療状況イメージスライド4:結果 診療状況 スライド5:結果 診療状況イメージスライド5:結果 診療状況 スライド6:結果 市場成績イメージスライド6:結果 市場成績 スライド7:結果 胸囲イメージスライド7:結果 胸囲 スライド8:肺炎事故の多い同一農場のH26年とH27年の胸囲測定イメージスライド8:肺炎事故の多い同一農場のH26年とH27年の胸囲測定 スライド9:肺炎低減農場の胸囲イメージスライド9:肺炎低減農場の胸囲 スライド10:農場毎の60日齢胸囲と呼吸器病死亡率の関係(11農場)イメージスライド10:農場毎の60日齢胸囲と呼吸器病死亡率の関係(11農場)

子牛の栄養状態を良好にすることで病気を低減できるという報告は数多い。ここでは、哺乳量により疾病に変化が現れた事例を紹介する。当初の概要がこちら(スライド1)。

呼吸器病の発症は、明らかに寒冷期に多い(スライド2)。
また、日齢ごとで分けてみると、発症が多いのはロボット哺育期間である。もともと病気の多い農場だったが、2015年4月にさらに多発する現象が起きた。呼吸器病が非常に多く、また、中耳炎も散発し、増体も低下。確認すると、今まで5.5Lだった哺乳ロボットによる哺乳量を4Lに下げていた。そこで6月から哺乳量を6Lにし、10月からは7Lに増量。代用乳の量を変化させることで疾病の発症状況が変化したので調査を行った。

材料および方法はこちら(スライド3)。

結果、まず中耳炎の発症率は哺乳量の増加に従って低下していった(スライド4)。死亡率も4L群で18%に対し、哺乳量6L以上で0%であった。
診療回数、診療点数は、ともに4L群に比べ6L群、7L群で有意に減少していた(スライド5)。
市場成績に関しても、4L群で0.93だったDGが、7L群は1.05と有意に上昇(スライド6)。価格比は、100を平均価格とした場合、4L群では83だったものが、哺乳量を増やすにつれ上昇し、7L群では110となった。

発育の状態を見るため、胸囲も測定した(スライド7)。それぞれの哺乳群で60日齢を基準として観察したところ、当然ながら哺乳量を上げることで胸囲は上昇した。
哺乳量を増加させ増体が良好になり、その結果、診療や死亡率も減り、市場価値が上昇したと考えられる。ここで発育の指標として、今回は60日齢の胸囲を基準に設定し、この60日齢胸囲の他農場での状況を調査した。

肺炎事故の多い同一農場で、2014年と2015年の胸囲を比較した(スライド8)。2014年は肺炎の死亡率が9.5%と非常に高い値だったが、翌年3.2%に減少。その時の60日齢の胸囲は90.5cmから94.6cmに増えていた。
続いて今度は肺炎死亡事故のない農場を調査した(スライド9)。母牛が100頭規模で2年間の肺炎死亡率が0%のB農場、肺炎死亡率0%で自然哺乳を行っている小規模な20農場、ともに60日齢胸囲は100cm以上の高い値を示した。

今まで胸囲測定を定期的に行ってきた11農場において60日齢胸囲と呼吸器病の死亡率の関係を見てみたところ、60日齢胸囲が上昇するに従って死亡率は減っていくことがわかり、100cm以上では0%となっていた(スライド10)。この結果を受けて現在、呼吸器病で悩んでいる農家では、60日齢胸囲100cmを目標に対策を行っている。ただし今回の調査対象は黒毛和種で、ほとんどが鹿児島県血統なので、設定値は条件により異なってくる可能性がある。

母牛の飼養管理からの呼吸器病対策

スライド11:事例紹介イメージスライド11:事例紹介 スライド12:MPT結果(2015/6 1回目)イメージスライド12:MPT結果(2015/6 1回目) スライド13:給餌内容 2015/6イメージスライド13:給餌内容 2015/6 スライド14:1回目MPT後(改善策実施)イメージスライド14:1回目MPT後(改善策実施) スライド15:MPT結果(2015/10 2回目)イメージスライド15:MPT結果(2015/10 2回目) スライド16:2回目MPT後→授乳中の下痢散発イメージスライド16:2回目MPT後→授乳中の下痢散発 スライド17:3回目MPT後→子牛良好イメージスライド17:3回目MPT後→子牛良好 スライド18:MPT結果(2017/8 5回目)イメージスライド18:MPT結果(2017/8 5回目) スライド19:MPT実施後の胸囲と疾病発症率の推移イメージスライド19:MPT実施後の胸囲と疾病発症率の推移 スライド20:MPT実施後の市場成績の推移イメージスライド20:MPT実施後の市場成績の推移

母牛の飼養管理による呼吸器病対策に関しても多くの報告がある。特に共通して言えるのは、妊娠末期の栄養状態を良好にすることで子牛の免疫力が高まり、抗病性が上昇するということ。我々の組合では黒毛和種子牛に対してMPT(代謝プロファイルテスト)を行っているが、母牛の栄養改善を目的としたMPT実施の取組みで良好な結果を得られたので紹介する(スライド11)。
対象農場では、呼吸器病対策として母牛に対し牛6種混合生・不活化ワクチンと、下痢5種混合ワクチンを分娩前に投与していた。出生子牛の体重はおよそ40kgと比較的大きい。人工哺乳量は900g/日であった。2015年春から子牛の病気が増加し、さらに親牛に繁殖障害も増加し、難産が相次いだ。聞き取りをしたところ、出産時の子牛が小さければ事故が減るだろうと、分娩前に餌を減らしていた。このような状況を受け、2年間で計5回のMPTを行った。

まず1回目の結果(スライド12)。遊離脂肪酸の上昇からエネルギー不足、BUN、TP、アルブミンの低下からタンパク不足、さらにはビタミンA不足やカルシウム不足など、さまざまな要因があった。
次に給餌内容を確認してみた(スライド13)。DMもTDNも不足し、タンパク質が著しく不足を示していた。そこで改善案として妊娠末期の配合飼料、粗飼料の増飼と、ビタミン剤、ミネラル剤の追加給与を提案した。

その後の結果、母牛の繁殖は改善できたが、90日齢までの子牛の呼吸器病や消化器病の診療回数は変わっていない(スライド14)。
診療回数が変わらなかった要因を検討するため、2回目のMPTを行った(スライド15)。まだBUN、TPが低く、タンパク不足が考えられた。

粗飼料を分析した結果、イタリアンサイレージのCPが5.5%と著しく低かった。そこで応急処置としてタンパク補充のための大豆粕の給与(400g-500g)を提案。また土壌の分析をしたところ、イタリアンのCPが低いのは窒素不足が原因だと判明したため、2016年に化学肥料を施肥し、2017年の収穫に備えた。

2回目のMPT後も、授乳中だけまだ下痢が見られたので、3回目を実施した。授乳中はまだBUNが低い状況だった(スライド16)。再び聞き取りしてみたところ、授乳中は大豆粕の給与を止めていたことが分かったため、改善するよう指導した。
3回目の改善後、子牛はようやく良好になった(スライド17)。BUNも十分改善されており、2017年2月の時点で、概ね問題のない結果を得た。

5回目となる2017年8月のMPT結果を見ると、タンパク不足は全く見られなくなった(スライド18)。
新生児疾患は、MPTを重ねるに従って減り、5回目の段階では2.6%になった(スライド19)。
疾病発症率のなかで最も減少が顕著だったのが呼吸器病。下痢の発症率は顕著な減少はみられなかったが、症状は軽微なものがほとんどで重症化したものはいない。60日齢胸囲で見ると、MPTを重ねるに従って上昇し、4~5回目では100cmをクリアした。
次に市場成績の結果(スライド20)。もともと市場の平均価格以上で販売していた農家だったが、MPTを重ねるごとに良好な結果が得られた。DGも同様に上がった。
黒毛和種繁殖母牛の主食となる粗飼料の品質は子牛に直結するため、やはり飼料分析も重要だと考える。

RSV感染症対策からの呼吸器病対策

スライド21:診療回数イメージスライド21:診療回数 スライド22:RSウイルス感染症についてイメージスライド22:RSウイルス感染症について スライド23・24:対策1 材料および方法イメージスライド23・24:対策1 材料および方法 スライド25:対策1 結果(診療状況、3.5ヶ月齢以上)イメージスライド25:対策1 結果(診療状況、3.5ヶ月齢以上) スライド26:対策1 結果(3.5ヶ月齢以上)イメージスライド26:対策1 結果(3.5ヶ月齢以上) スライド27・28:対策1 結果(3.5ヶ月齢未満、ワクチン未接種)イメージスライド27・28:対策1 結果(3.5ヶ月齢未満、ワクチン未接種) スライド29:対策1 結果(3.5ヶ月齢以上)イメージスライド29:対策1 結果(3.5ヶ月齢以上) スライド30:対策1 結果(市場成績)イメージスライド30:対策1 結果(市場成績) スライド31:対策1 結果(損害費)イメージスライド31:対策1 結果(損害費) スライド32:対策1 考察イメージスライド32:対策1 考察 スライド33:対策2 材料および方法イメージスライド33:対策2 材料および方法 スライド34・35・36:対策2 結果イメージスライド34・35・36:対策2 結果 スライド37・38:対策2 結果イメージスライド37・38:対策2 結果

子牛と母牛の飼養管理により、疾病は確実に低減できる。しかし低減できないのがウイルス疾患である。私たちの曽於地区で問題となっているのはRSV。ある農場では、呼吸器病の集団発生が見られ27頭中23頭が呼吸器症状を呈しており、後の検査で原因はRSVと確定した。

その農場の月ごとの診療状況を確認した(スライド21)。普段はコントロールできているが、RSVが一旦侵入すると著しく診療回数が増加する。

管内では呼吸器病の集団発生が起こった時、約8割にRSVが関与している(スライド22)。特に多頭農場への影響は大きく、労働負担が著しく増え、経済的損失も大きい。当組合では母牛のワクチン接種で対策してきたが、効果は不十分。

その改善策を検討するために調査を行った。
一つめの対策として、注射型の生ワクチンおよび不活化ワクチンのプログラム化を検討するため、黒毛和種繁殖農場で調査を行った(スライド23・24)。

ワクチン接種した3.5カ月齢以上の結果、発症率はLK1、LK2群で有意に低下し、死亡率はLL群、LK2群で低下傾向にあった(スライド25)。
また、診療回数、診療点数ともにLK1、LK2群で有意に減少していた(スライド26)。

一方で、ワクチン未接種の3.5カ月齢未満では、2015年だけが発症率、診療回数、診療点数ともに減少していた(スライド27)。このことより、ワクチン接種以外の要因でRS発生時に影響を与える要因があるのではないかと考え、それぞれの個体のRSV発症前までの診療状況を調査した。

すると、発生前の診療状況も2015年だけ低下していた(スライド28)。つまり発生前に多く治療した牛は、ウイルス発生時、さらに診療回数が増える可能性が考えられた。

そこでワクチン接種した3.5カ月齢以上の子牛に対し、多変量解析を行った結果、LK投与は発生時の診療回数を減少させる影響、発生前の診療回数は発生時の診療回数を増加させる影響にあった(スライド29)。

一方、市場成績を比較したところ、他の群では低下しているのに対し、LK1、LK2群は変化が少なかったため、ウイルスの影響が小さいと考えられた(スライド30)。

続いてRSVの1頭あたりの損害費を算出してみたところ、大きく差が生まれた(スライド31)。

RSVの損害費から考えると、ワクチン接種した方が有効であり、診療状況、市場成績からLK法が最も有効であると考えられた(スライド32)。また、発生前に診療を多くした個体は発生時の診療が多いことから、肺のダメージが大きい、あるいはもともと低免疫の個体はRSVの抵抗性が低いことが考えられた。
とはいえ、管内でLK法はほとんど普及していないのが現状である。
そこで鼻腔粘膜ワクチンに注目した。投与早期に免疫付与し、安全性が高く、発熱している個体にも投与できる。

そこで対策2ではRSV感染症の発生が疑われた際に鼻腔粘膜ワクチンを投与してその効果を検討した(スライド33)。

発症率、診療回数、診療点数のいずれの結果も改善された農場の方が多かった。(スライド34~36)。

費用対効果を算出したところ、9農場でプラスとなり、3農場でマイナスとなった(スライド37)。

鼻腔粘膜ワクチン投与時の農場内発症率と費用対効果の関係を見ると有意な負の相関が見られた。つまり早期投与であるほど効果が高いと考えられた。さらに、費用対効果がマイナスとなった3農場に置いて多変量解析をおこなったところ、投与のタイミングが遅かった2農場では投与時期が発生時の診療回数を増加させる影響、投与のタイミングが中程度であった1農場では発生前の診療状況が発生時の診療回数を増加させる影響にあった(スライド38)。
RSV感染症の診療状況から鼻腔粘膜ワクチンを投与した方が有効であると考えられ、RSV発生の際も速やかにINF-γが産生されたと推察。鼻腔粘膜ワクチンの早期投与が有効であり、発生前の診療状況も鼻腔粘膜ワクチンの効果に関与している可能性が考えられた。

まとめ
  • 子牛への哺乳量を上げることで発育が良好になり、診療回数、中耳炎の発症率、死亡率は低下し、市場価格比や60日齢胸囲は上昇していった。従来の報告通り、代用乳を増量することで呼吸器病の低減は可能。その際に60日齢胸囲を判断基準として見ることは有効であると考えられる。
  • これまでの報告どおり、分娩前、授乳中の母牛の栄養を充足させることで呼吸器病の低減は可能。妊娠末期の母牛の栄養改善をすることで、60日齢胸囲100cmという設定値をクリアでき、病気も低減、市場成績も上昇させられた。黒毛和種繁殖母牛では粗飼料がメインのタンパク源となってくるので、粗飼料の質に注意することが特に重要であると考えられる。
  • RSV感染症対策として、発生前から呼吸器病をコントロールすることが重要。さらに予防プログラムとしてLK法を実施し、発生が疑われた際には早期に鼻腔粘膜ワクチンを全頭投与することが有効であると考えられた。
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