講演レポート

バイエル薬品 大動物シンポジウム 2017
講演2

「大規模生産現場における子牛飼養管理を考える~子牛の出生から育成期の疾病予防~」

株式会社 益田大動物診療所 代表取締役/加藤 大介 先生

子牛の下痢予防:ロタウイルスの問題、初乳免疫、乳汁免疫について

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スライド1:ロタウイルス感染下痢便の細菌検査所見イメージスライド1:ロタウイルス感染下痢便の細菌検査所見 スライド2:出生後の子牛の腸管粘膜の構造イメージスライド2:出生後の子牛の腸管粘膜の構造 スライド3:初乳免疫イメージスライド3:初乳免疫 スライド4:ワクチネーションによる初乳抗体の産生と初乳摂取子牛の血中移行抗体イメージスライド4:ワクチネーションによる初乳抗体の産生と初乳摂取子牛の血中移行抗体 スライド5:乳汁免疫イメージスライド5:乳汁免疫 スライド6:≪乳汁免疫≫+≪初乳免疫≫イメージスライド6:≪乳汁免疫≫+≪初乳免疫≫ スライド7:乳汁免疫を利用した下痢対策イメージスライド7:乳汁免疫を利用した下痢対策 スライド8:試験1 ET和牛 死亡率イメージスライド8:試験1 ET和牛 死亡率 スライド9:乳汁免疫を利用した下痢対策イメージスライド9:乳汁免疫を利用した下痢対策 スライド10:試験2 F1 子牛腸炎発症率イメージスライド10:試験2 F1 子牛腸炎発症率

益田大動物診療所は島根県益田市にあり、乳牛や肉牛、繁殖和牛の大規模牧場をメインに診療している。そのなかで取り組んだ子牛の下痢とBRDCの予防について話したいと思う。
まずは子牛の下痢予防について。皆さんご存知のようにロタウイルスは安定性が非常に高く、牧場内に常在化する。また強い感染力を有し、20日齢までの極めて若齢な子牛に感染する。私たちの飼育プログラムは、新生子牛はF1もET和牛も乳牛も1カ月間ハッチで飼育する。和牛子牛は7日齢まで母牛と同居させ、次に生後1カ月齢までハッチにて飼育し、その後、自動哺育という流れとなっている。このような状況下で、若齢子牛は農場内で移動が繰り返されると同時に、常在化している種々のウイルスへの感染リスクが高まるため、ウイルス量と抗体量のバランスをとるようにコントロールしなければならない。

糞便の細菌検査を実施すると、下痢発症牛の便中総菌数と大腸菌数は、健康な子牛に比べて多い(スライド1)。さらにロタウイルスに感染している7頭中6頭からは、クロストリジウム・パーフリンジェンスが検出された。

ロタウイルスを防御するには、母牛にワクチンを投与し、初乳あるいは初乳製品を使って、獲得する初乳免疫を増やさなくてはいけない。初乳中に入っているグロブリン等の大きな分子は、生後24時間を過ぎると吸収できないので、速やかな初乳の給与が必要となる(スライド2・3)。ウイルス感染時には、獲得した初乳免疫はIgAとして分泌され、侵入したロタウイルスや細菌を防御する。いくら初乳のグロブリン濃度が高くても、ロタウイルスを防御するのであればロタウイルスに対する特異的な抗体を獲得させる必要がある。

繁殖和牛1,000頭規模の牧場で、母牛にロタウイルスが含まれる下痢のワクチンを投与し、分娩直後の初乳と生後5日目の子牛の血清を検査すると、G6PとG10Pのいずれの血清抗体価も高値を示した(スライド4)。しかしやはり個体差があり、初乳の抗体価が低く、それに伴い、子牛血清の抗体価も低い個体が存在した。そのため私たちのプログラムでは、乳牛の産子、つまりホルスタイン、F1、ET和牛については、ホエータイプの初乳製品を全頭与えている。繁殖和牛の子牛については、30kg以下や母牛の乳の飲みが悪い虚弱の診断を受けた子牛に給与している。

それでも子牛は10日目や14日目などに下痢をするため、乳汁免疫を利用している。これらのウイルスに対して抗体を有する乳汁を常時給与すれば、局所防御として有効なコーティング作用が期待できる(スライド5)。こういう方法で感染を防ごうと考えている。

初乳免疫で可能な限り抗体を蓄えて、腸管への分泌型としてウイルス感染を防御し、不足する部分は乳汁免疫で補う。出生後しばらくの間は抗体を有する乳汁を連日給与し、子牛を感染から防御することが重要である(スライド6)。

大規模牧場にて乳汁免疫を利用した場合のET和牛子牛の下痢発生状況について調査した(スライド7)。この牧場では出生後、母牛と7日間同居した和牛子牛と、乳牛から産まれて早期離乳したET和牛子牛を比較すると、明らかに前者で下痢の発生率が低かった。それを受けて、ET和牛も7日間母牛と同居する状況に近づけるため、この試験では乳汁免疫を付与するために初乳粉末製品を7日間、毎日給与した。

結果、腸炎発症率、平均治療回数、死亡率ともに有意に低下し、特に死亡率の減少は極めて大きかった(スライド8)。

この試験の結果を受けて、2017年4月からF1子牛にも初乳粉末製品を使用することにした。ロタウイルスによる下痢の発生するタイミングがET和牛に比べて遅かったため、給与期間を7日ではなく14日までとした(スライド9)。

すると、腸炎発症率、平均治療回数ともに有意に減少した(スライド10)。もともとET和牛でのみヘッドスタートを給与していたが、今回F1の子牛でも使用を開始したところ、ハッチ設置の牛舎内でも全体のウイルス量を減らすことが出来たと思われる。2017年はいずれも極めて順調な結果を辿っている。

BRDCの予防:BRDCの成立、ワクチネーションプログラム、BVDVについて

スライド11:BRDCの成立イメージスライド11:BRDCの成立 スライド12:L-Lプログラムにおける牛群のRSV抗体価イメージスライド12:L-Lプログラムにおける牛群のRSV抗体価 スライド13:L-L-K-Kプログラムにおける牛群のRSV抗体価イメージスライド13:L-L-K-Kプログラムにおける牛群のRSV抗体価 スライド14:各ワクチンプログラムにおけるRSV抗体価の比較イメージスライド14:各ワクチンプログラムにおけるRSV抗体価の比較 スライド15:呼吸器疾患の発生率と平均治療回数イメージスライド15:呼吸器疾患の発生率と平均治療回数 スライド16:呼吸器ワクチンプログラム(2015.10~)イメージスライド16:呼吸器ワクチンプログラム(2015.10~) スライド17:S肉牛牧場における、PI牛がいたA牛舎とPI牛がいないB牛舎の疾病発生状況の比較イメージスライド17:S肉牛牧場における、PI牛がいたA牛舎とPI牛がいないB牛舎の疾病発生状況の比較 スライド18:Y肉牛牧場における、PI牛による牛群の損耗(F1哺育・育成牛群)イメージスライド18:Y肉牛牧場における、PI牛による牛群の損耗(F1哺育・育成牛群) スライド19:PI牛の母牛の産歴(平成17年4月~平成23年3月)イメージスライド19:PI牛の母牛の産歴(平成17年4月~平成23年3月) スライド20:初産産子におけるPI牛の摘発イメージスライド20:初産産子におけるPI牛の摘発 スライド21:初産産子におけるPI牛の摘発状況イメージスライド21:初産産子におけるPI牛の摘発状況 スライド22:BVDVに対するワクチンプログラムイメージスライド22:BVDVに対するワクチンプログラム

BRDCの成立について色々な方がその機序を発表している(スライド11)。我々が今注目しているのはIBR。この問題について、現在は鼻腔内接種ワクチンを利用できるが、潜伏感染をするため、肥育の中盤、ビタミンが下がってくるとIBRが動くケースを経験している。その潜伏感染するという特徴を逆手にとって、他のウイルス感染を防御する可能性のあるワクチンもある。それぞれのウイルスの相互性なども意識しながら対策していかなければならない。

この大規模牧場では、2007年頃、中和抗体を測り、移行抗体が消失する時期を見計らって、L-Lを2回打とうとしていた(スライド12)。しかし、100日過ぎても高い移行抗体を持つ子牛が多く、ワクチンがブレイクされてしまう。この状況では200日、あるいは250日から呼吸器病が多発してしまう。牧場内のウイルス量が一気に増えて、ウイルス量に抗体量が負けてしまう、よくあるパターンである。

2009年には再度プログラムを変更し、教科書通り、最初にLを打ち、ウイルス量の多いKを後半に投与する、L-L-K-Kというプログラムにして、思い切って4回、牧場によっては5回投与したところ、良好な結果が得られた(スライド13)。

L-L、L-L-K、L-L-K-Kの投与プログラムで比較すると、抗体価の動き方に違いが見られた(スライド14)。

各プログラムにおいて呼吸器疾患の発生率、平均治療回数を集計した(スライド15)。L-Lの2回投与よりもL-L-K-Kの4回投与プログラムの方が、有意に少ない結果となった。

2015年から行っているワクチン投与プログラムでは、鼻腔内投与ワクチンを和牛繁殖牧場は7日齢、酪農牧場では産まれた直後に投与し、その後は全て生ワクチンを投与している。不活化ワクチンは使用していない(スライド16)。生ワクチンを使用することで、サイトカインやインターフェロンの動員を目指し、子牛の免疫機能がより成熟するよう促す、という考え方で対応している。

一方、BVDVは発熱、下痢を主症状とする。妊娠牛に感染すると、胎盤感染が高頻度で起こり、感染時の胎齢により、胎児死、奇形また免疫寛容によるPI牛が産まれる。PI牛はウイルスを自己と認識し、生涯ウイルスを排出し続け、致死的な経過をとる粘膜病を稀に発症する。BVDVをコントロールできなければ、牧場全体にとって致命傷になる。PI牛のいる牛舎といない牛舎で病気の発生状況を比較した(スライド17)。PI牛がたった1頭いただけで、同時期の延べ診療回数や診療頭数に大きな差がでている。

20頭前後のスモールが毎週導入される別の牧場では、PI牛のいた牛群で呼吸器病での死亡が5頭発生した(スライド18)。PI牛による影響は極めて大きい。

PI牛が1頭でもいれば、糞便、尿、唾液全てからウイルスが排泄され、次の妊娠した牛に感染させてしまう。この妊娠牛がまた次のPI牛を産む可能性もある。もちろん繁殖成績の悪化や流産の増加も危惧される。この負のスパイラルを止めるには、まずPI牛を摘発して淘汰することを繰り返さなければいけない。また、牧場内でウイルスが増えないようにワクチンの接種を継続し、外部からの牛導入時には成牛、妊娠牛、スモール、全て検査しなければ、牧場内の蔓延を防げない。
平成17(2005)年から調査を始め、27頭発見したPI牛について、母牛の産歴を調査した(スライド19)。

当初は、感染が疑われた牛群を調べていたが、ほぼ初産牛がPI牛をつくると想定できるようになったので、以降は初産時にターゲットを絞った。
肥育牧場であれば外部導入哺育子牛を、酪農の牧場であれば初妊牛の産子の検査を平成22年、23年、26年から続けてきた(スライド20)。

Aはスモール導入の肥育牧場、Bは1,100頭搾っている酪農牧場、Cは最近始めた酪農牧場である(スライド21)。
初産の子牛を調べるたびに出たB牧場では近年PI牛が摘発されなくなってきたが、先週、外部から導入した妊娠牛の産子のET和牛で、PIの陽性が発覚した。これだけ多くの頭数を調べてたった1頭を発見する作業ではあるが、それでも続けなければ牧場を守っていけないと考えている。

BVDVに対するワクチン投与プログラムがこちらである(スライド22)。子牛のステージは生ワクチンを投与する。人工授精後、妊娠が確認されたら、PIの予防として必ず不活化ワクチンを投与する。経産牛については、妊娠が確認される度に不活化ワクチンを投与している。このプログラムを実施しているB酪農牧場については、先述の外部から導入した妊娠牛1頭以外、今のところPI牛の産出は認められていない。

まとめ
  • 繁殖和牛1,000頭規模の牧場で、母牛に下痢のロタウイルスが含まれるワクチンを投与し、母牛初乳抗体価と5日齢子牛の血清抗体価を調べたところ、G6PとG10P、いずれの抗体価も高かった。しかしながら個体によっては低いものもいた。
  • 大規模牧場において乳汁免疫としての初乳粉末製品の使用有無による子牛の下痢発生状況について調査したところ、初乳粉末製品給与区では腸炎発症率、平均治療回数、死亡率ともに有意に低下した。
  • BRDCの予防を目的としたワクチネーションにおいて、L-LよりもL-L-K-Kのプログラムのほうが、抗体価、呼吸器疾患の発生率、平均治療回数ともに有意に優れていた。
  • PI牛のいる牛舎といない牛舎で病気の発生状況を比較したところ、PI牛がたった1頭いただけで、同時期ののべ診療回数も診療頭数も全く違う結果となった。
  • 子牛のステージは生ワクチン、妊娠確定時に不活化ワクチンを投与するという、BVDVに対するワクチンプログラムを行ったところ、外部導入牛の初産子牛を除いては、PI牛の産出は認められなくなった。
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