講演レポート

バイエル薬品 大動物シンポジウム 2017
講演1

「子牛の管理~トータルハードカーフサービスの取り組みから~」

株式会社 トータルハードマネージメントサービス 代表取締役社長/佐竹 直紀 先生

哺育専門の預託牧場を運営することで見えてきた群飼の優位性。

各スライドをクリックすると大きいスライドがご覧いただけます。

スライド1:(株)トータルハードカーフサービスイメージスライド1:(株)トータルハードカーフサービス スライド2:タイストール牛舎を改造イメージスライド2:タイストール牛舎を改造 スライド3:ペアハッチ 成績イメージスライド3:ペアハッチ 成績 スライド4:ペアハッチ スターター採食量イメージスライド4:ペアハッチ スターター採食量 スライド5:群飼イメージスライド5:群飼

酪農一大地域である北海道の根室管内、別海町で酪農場の一般診療や繁殖管理、コンサルティングをしていた中、2014年に立ち上げたのが、子牛の哺育専門の預託牧場「(株)トータルハードカーフサービス」である(スライド1)。酪農家の規模拡大が続く一方、後継者不足や高齢化など、労働力の不足が慢性的な問題になってきている。そこで我々獣医師が関わることで問題解決の手助けになるのではということ、また我々自身が子牛の世話をすることで勉強になることもあるのではと思い設立した。そこから得たいくつかのトピックスを紹介していきたい。

もともとタイストール牛舎だった場所を買い受けて改造し、両側に25頭ずつ合計50頭の子牛が入れるよう、パネルで仕切ったカーフストールを設置(スライド2)。さらに2016年の秋には、60~70頭収容できる哺育ロボットの牛舎も建設した。
現状、様々なことにチャレンジしているが、その一つがペアハッチ。カナダのブリティッシュコロンビア大学のキーサリンク博士の研究によると、子牛を単頭ではなく複数頭で飼育する方が、哺乳期のスターターの採食量と増体に優れ、離乳後のグループ化のストレス軽減と採食量増加にも有利であるという。

そこで、60日間の増体を調査した結果がこちら(スライド3)。やはりペアの方が圧倒的に飼育成績が良いことがわかる。

その秘訣はスターターの採食量。食い上がりが全然違う(スライド4)。病気が懸念されるが、私の農場ではその発生に差はなかった。キーサリンク博士の研究でも、ペアでもトリプルでも病気の発生は変わらない、あるいは減少傾向にあるとされている。

ペアハッチから学んだことをまとめた(スライド5)。群への馴致が非常に楽なので、離乳後の採食量の低下もほとんど見られない。しかしペアにする牛の強弱の差がありすぎると、弱い子牛を追い返しミルクを飲んでしまうこともある。また、離乳していく過程でまれに吸いあい行動が見られる。その時点で問題はないが、初産分娩したときに乳房炎になっていたり、搾乳に影響が出る可能性がある。対策は、吸引欲を満たすこと。うちではニップルの付いたバケツで哺乳し、飲み終わってもすぐには片付けない。すると10分くらいは吸い続けている。唾液の分泌量もニップル哺乳の方が圧倒的に多い。子牛の場合、膵臓から分泌される脂肪分解酵素リパーゼの量が充分ではなく、唾液中に含まれるPGE(プレガストリックエステラーゼ)がその役割を果たす。それ以外にも、例えば抗菌物質のラクトフェリンなども含まれているため、唾液の分泌が非常に重要になってくる。

ノウハウを確立し正しく運用すれば、哺乳ロボット管理は利点が多い。

スライド6:哺乳ロボットイメージスライド6:哺乳ロボット スライド7:カーフサービスの哺育ロボット牛舎イメージスライド7:カーフサービスの哺育ロボット牛舎 スライド8:哺乳ロボット管理のポイント(20年前との違い)イメージスライド8:哺乳ロボット管理のポイント(20年前との違い)

哺乳ロボットの利点は多い(スライド6)。頻回少量哺乳は、子牛の消化性の点からも非常に優位性がある。実は20年ほど前にも哺乳ロボットのブームはあったが、ノウハウがなく失敗する農家が多かった。

カーフサービスでは哺育ロボット牛舎にパドックを造ったが、これは大成功だった(スライド7)。頭数が増えた際に必ず起こる競合の問題を、パドックが緩衝してくれる。昼間は4~5頭が外に出ており、冬の寒い朝でも朝日が出たらみんな出て太陽を浴びている。

哺乳ロボットの管理にはいくつかのポイントがある(スライド8)。最近のシステムは非常に性能が優れており、哺乳の量やスピードもモニタできる一方、その数字に現れてきてからでは下痢の発見が遅れる。子牛の下痢は早めに処置すれば酷くはならないので、その発見のためにもここへ移動するのは2週齢以降、できれば3週齢以降が望ましく、ミルクの量も充分確保する必要がある。離乳も昔は一発断乳が行われていたが、今は2週間くらい前から2~3段階に分けて減らしていくのが主流。スターターと粗飼料はもちろん飽食。配合給餌では、弱い子牛はいつまで経ってもスターターが食べられない。そして重要なポイントが換気。呼吸器病はロボットの乳首を介して伝染しやすいためロボットは良くない、という声をよく聞くが、実際は換気が原因だという感覚を得ている。もちろん何より観察を怠ってはならない。

陽圧換気で浮遊バクテリア数を減らせば、呼吸器病は激減する。

スライド9:呼吸器病発生と浮遊細菌数イメージスライド9:呼吸器病発生と浮遊細菌数 スライド10:陽圧換気システム~浮遊バクテリアコントロール~イメージスライド10:陽圧換気システム~浮遊バクテリアコントロール~ スライド11:浮遊バクテリア数~(比較的衛生的な)牛舎内~イメージスライド11:浮遊バクテリア数~(比較的衛生的な)牛舎内~ スライド12:カーフサービスの換気システムを改造イメージスライド12:カーフサービスの換気システムを改造 スライド13:陽圧換気 改善後イメージスライド13:陽圧換気 改善後

ウィスコンシン大学での研究でも見て分かる通り、空気中の細菌数の増加に伴い、呼吸器病の発生は増える(スライド9)。予防するには空気中のバクテリアをコントロールする必要がある。しかし牛舎全体の空気を入れ替えたところで、パネルで仕切られているハッチの空気は動かない。

その解決方法として、我々も採り入れたのが陽圧換気(スライド10)。ダクトに開いている穴から、1頭ずつの子牛の鼻先に、フレッシュな空気を送り込む。その際、子牛に風を感じさせないことがポイント。寒冷ストレスで風邪をひかないよう調整している。

実はカーフサービス開業時の陽圧換気は失敗している。搾乳牛舎を改造したので、中央のダクトから出てきた空気が梁やパイプラインに当たってブレイクされていた。季節の変わり目に呼吸器病が出る原因を探ろうと、エアサンプラーで空気中のバクテリア数を測定したところ、全く臭くもない清々しい牛舎だったにもかかわらず酷い状況だった(スライド11)。

そこで2016年の秋に改造し、もともと中央を通っていたダクトを左右に分岐させ、カーフストールの真上を走るようにして、間違いなく子牛に新鮮な空気を送り込める位置に変えた(スライド12)。

その後に採った結果がこちら(スライド13)。換気をしていると菌数は減るが、換気を止めるとかなり増える。冬を一つ越えたが呼吸器病は激減した。

SARAを予防するには、粗飼料とスターターの選択が非常に重要。

スライド14:子牛とSARA~離乳前後の下痢~イメージスライド14:子牛とSARA~離乳前後の下痢~ スライド15:スターターの採食量の推移イメージスライド15:スターターの採食量の推移 スライド16:1番チモシー乾草の採食量の推移イメージスライド16:1番チモシー乾草の採食量の推移 スライド17:スターターと1番チモシー乾草の採食量の推移を比較イメージスライド17:スターターと1番チモシー乾草の採食量の推移を比較 スライド18:子牛とSARAイメージスライド18:子牛とSARA スライド19:スターターイメージスライド19:スターター スライド20:Animal Welfareイメージスライド20:Animal Welfare

下痢発生のピークは、まず生後7~14日にある(スライド14)。これは恐らくクリプトスポリジウムあるいはロタウイルスの感染性の下痢だろうが、その後2カ月齢を境にして再度発生する。

離乳に向けた過程では、スターターの採食量が急上昇する(スライド15)。摂取された穀類は、ルーメンの中で発酵して酪酸やプロピオン酸などのVFA(揮発性脂肪酸)を産生し、ルーメンパピラが成長していく。成長中のルーメンはVFAの吸収量が高くなく、親牛ほど唾液中に含まれる重炭酸イオンのバッファー効果も高くないため、多くの子牛がSARAを経験すると言われている。

1番チモシー乾草の採食量の推移を調べたものがこれ(スライド16)。先ほどのグラフと相反して、離乳してもなかなか採食量は上昇しないのがわかる。

グラフと重ねてみると、離乳の前後にスターターと粗飼料の採食量にギャップがあるのがわかる。さらに下痢のグラフを加えると、SARAの疑いが判明する(スライド17)。

子牛におけるSARAの症状をまとめた(スライド18)。下痢に特徴があり、未消化穀類が多く見られる。これがコクシジウムとの大きな違い。何頭かで飼っているところに餌をやっても食べ残す日を繰り返す。そして呼吸器病が見られる。

SARAを予防するには、粗飼料とスターターの選択が非常に重要になってくる。1番チモシー乾草は、固くて茎が太いので、離乳前後の子牛には不適切。2番草やオーツヘイなど、柔らかい繊維でないと子牛たちは食べられない。また、スターターの種類にも色々あるが、ペレット&フレークのものは、子牛の嗜好性も非常に良い。トウモロコシの粒や大麦、燕麦の粒がルーメンマット自体を構成することにもなるのでお薦め。

SARAのリスクの観点から言うと、栄養は特にデンプン価を気にする必要がある(スライド19)。低デンプンスターターの値段は高いが、この時期の子牛が食べるスターターの量は1~3kg。ここで10~30円を惜しむべきではない。また、親牛の乳配はデンプン価が非常に高く、タンパク含量は低いため、好ましくない。

子牛の管理には未解明な部分が多く残されている。アニマルウエルフェアの5カ条(スライド20)を念頭に、子牛の管理を考え直してみることで、さまざまな疑問がわいてくるだろうし、その疑問を解決していくことが子牛の管理を進化させていくのではないかと思う。

まとめ
  • 子牛の群飼は哺乳期のスターターの採食量と増体に優位性があり、離乳後のグループ化のストレス軽減と採食量増加にも有利。
  • 群飼のポイントは、強弱の差がない3週齢以降の子牛を組み合わせ、充分な哺乳量を確保し、吸引欲を満たすこと。もちろん観察も重要。
  • 哺乳ロボットは、労働力の軽減や管理の一定化、哺乳の頻回少量化や社会性の向上に役立つ。
  • 哺乳ロボット管理のポイントとして、2.5~5.0㎡/頭のスペースを確保し、同週齢の子牛15頭までをグループ化すること、スターターや粗飼料は飽食とすること、換気を正しく行うこと、観察を怠らないことなどが挙げられる。
  • 陽圧換気システムにより、寒冷ストレスを与えず子牛牛舎の浮遊バクテリアをコントロールすることで、呼吸器病の発生は激減した。
  • 離乳前後に下痢が急増する原因ともなるSARAは、粗飼料とスターターの選択次第で予防が可能である。
このページのトップへ
BAYER
Copyright © 2011 Bayer Yakuhin, Ltd.