講演レポート

バイエル薬品 養豚シンポジウム 2016
講演3

「薬剤耐性菌を増やさない守りと攻めの衛生対策」

宮崎大学 産業動物防疫リサーチセンター/末吉 益雄 先生

薬剤の耐性菌対策が重要課題に

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スライド1:抗生物質動物用医薬品の販売量イメージスライド1:抗生物質動物用医薬品の販売量 スライド2:AMR対策の目標値イメージスライド2:AMR対策の目標値 スライド3:適正使用から慎重使用へイメージスライド3:適正使用から慎重使用へ

 農林水産省が公表した抗菌薬の推定販売量を動物種別に見ると、養豚での販売量が圧倒的に多い。休薬期間を守り、食肉の安全性も問題がないにせよ、この数値を消費者が目にすれば「薬漬け」と勘違いしかねない(スライド1)。
 2016年5月の伊勢志摩サミットにおいて、薬剤耐性菌対策は重要課題とされ、家畜糞便由来大腸菌(E.coli)の薬剤耐性率(AMR率)を2020年までに下げるという具体的な目標値が定まった(スライド2)。そのため、「適正使用」から「慎重使用」へ考え方が変わってきている。これは、豚の飼養管理においてワクチンや環境衛生対策をしっかり行いながら抗菌薬を適正に使用するということであり、無計画な抗菌薬抑制は疾病の増加、サルモネラなどの食中毒菌の保菌豚の増加をまねき、逆に養豚業界への逆風になりかねない。(スライド3)。
 本講演では、守りとしての環境衛生やバイオセキュリティ、病気が発生したときにどのように攻めの治療を実施していくかについて話をしたい。

浮腫病集団死亡事故発生事例から抗菌薬使用を考察

スライド4:ETEECの増殖曲線とStx 2e産生イメージスライド4:ETEECの増殖曲線とStx 2e産生 スライド5:抗菌薬感作によるETEECの増殖性・志賀毒素放出量の関係イメージスライド5:抗菌薬感作によるETEECの増殖性・志賀毒素放出量の関係 スライド6:抗菌薬感作によるETEECの増殖性と菌体内外志賀毒素量の関係イメージスライド6:抗菌薬感作によるETEECの増殖性と菌体内外志賀毒素量の関係 スライド7:感受性回復の一例イメージスライド7:感受性回復の一例

 浮腫病の集団死亡事故発生事例において抗菌薬の使い方が難しかった例だが、離乳時に症状が現れ、死亡豚が出始めてからST合剤を使ったものの、かなりの頭数が死ぬという事例であった。浮腫病は産生した毒素を菌の内側に蓄えるという特徴がある(スライド4)。外に出す毒素よりも中に蓄えているほうが多いため、菌の壁を壊すと中の毒素が出てくる。抗菌薬の使用により、殺菌だけでなく豚も殺してしまったと考えられた。

 浮腫病由来大腸菌の志賀毒素産生・放出と抗菌薬との関係をみるために、15種類の薬剤について調べた。供試菌株(108cfu/mL)に対して各薬剤MICの1/16倍(1/16MIC)、等倍(1MIC)、16倍(16MIC)で4時間感作させ、毒素量を調査した。
 まずは毒素放出量について。コリスチン(CL)を例に見てみると、1/16MICの感作では、菌の増殖は無薬感作とほぼ同じように増殖したが、放出毒素は少し減少している。1MIC感作では十分殺菌され、放出毒素量も減少している。一方、ホスホマイシン(FOM)を見ると、1MIC感作では99.9%殺菌されているが、放出毒素がかなり増えている。フルオロキノロン系になると、殺菌性もあり放出毒素も抑えていることが分かる(スライド5)。

 次に菌体内の蓄積毒素を見ると、ST合剤では、1MIC感作で増加している(スライド6)。殺菌能力が少ない一方で、菌体内の毒素産生量を抑え切れていない。先述の集団死亡事故は、他の物質が菌を壊し、蓄積毒素が外に放出されたため起きたのではないかと推察される。ここでもエンロフロキサシンが非常に有効であると分かる。

 また、別の浮腫病事例だが、薬剤感受性が芳しくなかった農場での感受性回復事例である。この事例では、コリスチンの飼料添加を中止したり、その他CP(粗タンパク質)を下げたり、消毒を徹底したりした結果、多くの薬剤の感受性が回復した(スライド7)。

抗菌薬代替物の可能性 ~亜鉛製剤とプロバイオティクス~

スライド8:亜鉛製剤の大腸菌の増殖に対する影響イメージスライド8:亜鉛製剤の大腸菌の増殖に対する影響 スライド9:亜鉛製剤の志賀毒素放出に対する影響イメージスライド9:亜鉛製剤の志賀毒素放出に対する影響 スライド10:プロバイオティクスによるETECの細胞付着抑制イメージスライド10:プロバイオティクスによるETECの細胞付着抑制

 酸化亜鉛や炭酸亜鉛を使用するとヨーロッパのように効果があるようである。亜鉛製剤は大腸菌の増殖に影響するのか。まずダイレクトに大腸菌の増殖を抑えることができるか試験したが、コントロールと変わらないくらいの増殖速度、増殖量であった(スライド8)。また、溶血毒素に対し、酸化亜鉛や炭酸亜鉛を入れたところ、溶血環が小さくなった。さらに志賀毒素に対する影響を調べてみると、24時間だと著しく毒素放出を抑えていることがつかめた(スライド9)。

 次に、抗菌薬の代替となるプロバイオティクスの効果を確認するため、Caco2細胞培養で腹中を再現してみた。そこに大腸菌に感染させると一気に増殖する。プロバイオティクスを培養した上清をかけて観察すると、もちろん無添加のものは一瞬で菌が増えるのに対し、添加したものは菌の付着を99%抑えた(スライド10)。大腸菌は腸の粘液を通って細胞に付着すると、そこで増殖し悪影響を及ぼすので、付着を抑制するのは非常に大事だ。ヒトではプロバイオティクスにより免疫系があがっているといわれているが、豚でも空腸のパイエル板の増加、肝臓のクッパー細胞の貪食や肺胞マクロファージの貪食能の上昇の傾向もあるようである。

「守り」の環境衛生 ~水洗・洗浄・消毒・乾燥の見直し~

スライド11・12:予備試験内容とその結果イメージスライド11・12:予備試験内容とその結果 スライド13・14:空舎期間7日間の洗浄消毒効果確認とその結果イメージスライド13・14:空舎期間7日間の洗浄消毒効果確認とその結果 スライド15・16:大腸菌の生存性イメージスライド15・16:大腸菌の生存性

 環境中における病原微生物数のレベルを下げる「守り」ついて考える。まずは予備試験として、洗浄・消毒方法の比較検討を行った。空舎期間7日間という期間を3日間に短縮できないかと各種薬剤(ビルコン、グルタラール製剤、ハイペロックス)の各洗浄消毒パターンを用いて確認したが、やはり7日間の方が除菌率は高かった(スライド11・12)。サーコウイルスも空舎3日間ではなかなか落とせなかった。

 そこで7日間方式を採用し、ビルコン発泡とグルタラール製剤の煙霧にバイオソルブを加えて試験し、効果を確認した。また、どの作業工程に消毒効果が現れるのかを、オールアウト後、洗浄後、消毒後、オールイン前の各工程(乾燥後)後に採材して確認した。
 ビルコン発泡後を見るとウェルシュ菌が非検出となり、オールイン前は一般細菌やサーコウイルスは残存しているが他の調査細菌は検出されなかった(スライド13・14)。各工程後に乾燥を入れているが、水洗後の乾燥については消毒薬が適正濃度にならないことがあるのでとても大事である。
 この調査から乾燥の重要性が見えてきたため確認したところ、湿度が高いと約1カ月も生存している。一方、湿度が低い(乾燥状態)であれば12時間程度の生存であるので、消毒の前後に乾燥を挟むのは非常に有効である。また、有機物の存在が消毒効果に影響を与えることは周知であるが、有機物が少ないほうが大腸菌の生存率低い傾向がある(スライド15・16)。

 その他の消毒でもリスクはあると考えるべきである。例えば踏込槽だが、実際に十分な感作時間をもって使用している農場は少ないのではないだろうか?ブロイラー農場に設置していた消毒槽の薬液から一般生菌ならびに大腸菌が確認された例がある。長靴の履き替えを基本にすることも重要であろう。また、長靴の中もカビが発生していることが多いため、靴下などで次に運んでいくということも、注意しなければならない。一般的に、消毒を滅菌と勘違いしている人も多いようだが、減毒と考えるべきである。

「攻め」の治療 ~飼料添加から、個体への注射、豚房ごとの飲水投与の可能性~

スライド17:MPCとMSWイメージスライド17:MPCとMSW スライド18:予防的治療としての飲水投与イメージスライド18:予防的治療としての飲水投与

 抗菌薬に関しては、MIC値だけを気にすると、MSW(耐性菌選択濃度域)で生き残ったものが変異を起こして耐性菌になるので、MPC(耐性菌出現阻止濃度)を考慮する必要がある。例えばフルオロキノロンは濃度依存性なので、高濃度での短時間投与を行うことがメリットである(スライド17)

 以前、浮腫病における治療試験を企画実施したが、死亡豚が確認されいざバイトリルを投与しようとしたが間に合わなかった例がある。そのような時にドサトロンのような定量飲水投薬器があれば、ペン着脱のアダプタをつけ、症状が出たものも含め潜在的に感染しているものも治すような方法が、できるのではないかと考えている。ペン着脱のアダプタ付きドサトロンあるいはラウンドフィーダーなどを使用した飲水投薬なら狙いを定め、しかも高濃度でペンを治療できる(スライド22)。ただ、投与後に便が少し緩くなってくる点(抗菌薬関連下痢症)には注意しなければいけないことも付け加えておく。疾病起因菌を殺滅するが、腸内フローラも攪乱する恐れがあるため、プロバイオティクスを併用するなど後のケアも必要である。
 また。定期的に検査することで農場の耐性菌を把握しておくべきである(ファームドック)。導入元農場の影響もあるかもしれないが、農場で使用していない薬剤の耐性菌が確認される例もあるため、結局は自分の農場の状況を調査することが肝要だ。そうすることで、第1次選択薬が効かないから第2次選択薬、という判断もつき、死亡事故を事前に防ぐことも可能だと考える。

まとめ
  • 浮腫病豚由来菌の増殖による志賀毒素の産生・放出と抗菌薬の関わりについて調査したところ、エンロフロキサシンは殺菌性もあり毒素の産生・放出も抑制できることが分かった。
  • 抗菌薬代替物としての亜鉛製剤は大腸菌の増殖の抑制はできないが、志賀毒素放出は抑えるようである。
  • 抗菌薬代替物としてのプロバイオティクスの効果を調査したところ、大腸菌の細胞付着能を抑制した。
  • 環境衛生を守るための洗浄・消毒方法は、7日間の方式で効果が高く、消毒の前後の乾燥工程を挟むことが非常に有効であると考えられる。
  • ドサトロンを用いるなど予防的治療としてのペン単位での飲水投与は効果が高いと考えられるが、高濃度治療の場合、抗菌薬関連下痢症などを招く恐れもあるため、プロバイオティクスなどを併用したケアも必要である。
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