講演レポート

バイエル薬品 養豚シンポジウム 2016
講演1

「デンマークの養豚における疾病管理とバイオセキュリティ」

SEGES Pig Research Centre Danish Agriculture and Food Council, Copenhagen, Denmark/ベント ニールセン 先生

デンマーク養豚のSPFバイオセキュリティ

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スライド1:デンマーク養豚リサーチセンターイメージスライド1:デンマーク養豚リサーチセンター スライド2:デンマークの平均及びトップ農場成績イメージスライド2:デンマークの平均及びトップ農場成績 スライド3:デンマークにおけるOIE疾病状況イメージスライド3:デンマークにおけるOIE疾病状況 スライド4:デンマークSPF対象7疾病イメージスライド4:デンマークSPF対象7疾病 スライド5:繁殖ピラミッド=家畜衛生ピラミッドイメージスライド5:繁殖ピラミッド=家畜衛生ピラミッド スライド6:サイト別SPF農場概要イメージスライド6:サイト別SPF農場概要

 デンマークは小さな国で、人口も500万人程度だが、養豚業が非常に盛んで3,100万頭もの豚が飼育されている。ほとんどが家族経営であり、99%の生産者が約150年前に設立された協同組合に加入している。この組合には、生産者が資金を出資し組織された養豚リサーチセンターがあり、色々な知識・情報の伝達や研究開発などを行っている。私はそこのビジネス部門で部門長を務めている。(スライド1)

 1980年代には40,000軒以上の養豚生産者が存在したが、その後、急速に減少し、現在は約3,500軒で全体の95%を飼養している。一方、頭数は1975年に900万頭だったのが、2014年には3,000万頭、2016年で3,100万頭と規模は拡大しており、年間1,300万頭の生体、豚肉の85%を海外に輸出している。(スライド2)

 各種疾病については現在、良好にコントロールされていると言える(スライド3)。疾病管理のために各種の厳しい規制があり、農場の内部レベル、病原体の農場への侵入を防ぐ外部レベル、国境での侵入を防ぐ全国レベルと、3つのレベルにバイオセキュリティが区分され、管理されている。デンマークは1971年にSPFシステムを導入し、7つの豚感染症を管理している(スライド4)。なお、当システムは、現在、約3,000もの農場がメンバーとなり、100%の原種豚と種豚、78%の母豚が管理・生産されている。管理は大きく2つのブロックに分けられている(スライド5)。1つはレッドシステム。遺伝的に最良の原種豚及び種豚が飼育されている240の農場が該当し、毎月1回の臨床検査と血液検査が実施されている。もう1つはブルーシステムと呼ばれる一般的なコマーシャル農場で、毎月1回の臨床検査と少なくとも年1回の血液検査が義務づけられている。SPF該当疾病に関して陰性農場の割合は、特にレッドシステムで非常に高い(スライド6)。

 デンマークでは全ての農場のデータがデータベースに登録されていて、誰もがWEBサイトで閲覧できるようになっている。つまり生産者や購入顧客はSPF、疾病の管理状況を常に確認できるなど、透明性を持ってデータが管理されている。例えば「ブルーSPF+マイコ+APP6型」のように、SPFのカラーと疾病発生状況が明記されていて、このステータスによって豚の価格等に影響が及ぶことになる。より健康な豚を育てるためのインセンティブが働いているということである。

アフリカ豚コレラなどあらゆる危険因子の侵入を阻止

スライド7:農場レベル – 外部バイオセキュリティイメージスライド7:農場レベル – 外部バイオセキュリティ スライド8:基本的なエントランスルームイメージスライド8:基本的なエントランスルーム スライド9:SPF – 運搬イメージスライド9:SPF – 運搬 スライド10:アフリカ豚コレラの3つリスクゾーン分けイメージスライド10:アフリカ豚コレラの3つリスクゾーン分け スライド11:国境対策 畜産運搬トラックの洗浄消毒イメージスライド11:国境対策 畜産運搬トラックの洗浄消毒

 バイオセキュリティをコントロールするためには、様々なリスクファクターがある(スライド7)。デンマークではGIS(Geographic Information System)を用いて、域内にどのような疾病のアウトブレイクがあるかを管理している。このように疾病、気流、気象など多くのデータがあれば、将来のリスクも予測でき、生産量も調整できる。また、鳥やネズミ、野生動物などに侵入されないよう、農場の内外には様々な対策が施されている。さらには病原体と感染について従業員の教育も重要で、いかに汚染や感染が起こるのかの事前理解により、従業員も常に適切な行動をとることができる。

 デンマークの農場にはエントランスルームの設置が義務づけられている(スライド8)。豚舎入場時には、まず汚染されている可能性のあるダーティエリアで長靴や服を脱ぎ、シャワーを浴びる。そして新しい作業着と長靴を身につけて豚舎に入っていく。退出時にも同じような手順をとる。SPF農場では既に40年間やっていたが、2014年に法制化されたため、現在では全ての養豚生産農場で実施されている。

 豚や飼料の運搬トラックもリスクとなるため、豚の搬出入時には専用の場所にて常に洗浄・消毒プログラムが実施される。 そのトラックの内面は洗浄、消毒が非常に簡単な、光沢のあるプラスチックで覆われているものが採用されている。また管理レベルの低いエリア(ローリスクエリア)から管理レベルの高いエリア(ハイリスクパート)への移動時には12時間のダウンタイムが設けられている。(スライド9)。

 SPF専用輸送トラックには、外部からの細菌やウイルスの侵入を遮断できるHEPAフィルターまたは紫外線フィルターが設置されている。このトラックはヨーロッパ全域を移動するため、汚染リスクの高い地域での運搬時には有効で、目的地に着いてからも非常に良い健康状態を保つことができる。

 ヨーロッパで今一番問題となっているのがアフリカ豚コレラである。これは汚染された残飯を給餌したことにより伝染したもので、7~8年前にモザンビークから持ち込まれたことに始まり、ロシアにまで拡散した。ポーランドでも多くの地域で発生が確認されており、EU諸国でも危険が目の前に迫っている。ワクチンも治療法もなく、90%は1~2週間で死亡するが、残りの10%が生存し感染が広がる原因となる。
 デンマークの私たちの組織は数年前に、ヨーロッパを3つのゾーンに区分けし、新しいコントロールプログラムを開始した(スライド10)。発生確認危険ゾーンをトラックが行き来をした場合、7日の隔離期間を設けなければいけない。まだ発生が確認されていないエリアの場合、隔離期間は48時間。このようにバイオセキュリティのルールを作って、侵入を防いでいる。

 ヨーロッパでは法律上、全運搬トラックに設置したGPSのデータを、5分、10分ごとに発信しなければならない。国境地域には畜産運搬トラックの洗浄消毒施設があり、外面の洗浄や内面の殺菌を徹底的に行う。運転手も、何時間隔離されていたか、検疫を受けたかなど、認証を得ることになる。このような形で2015年は25,000台の輸送トラックが国境での洗浄・消毒を行った。輸出離乳子豚の700万頭がドイツに輸出され、400万頭がポーランドに毎年輸出されている。デンマーク養豚は輸出依存型の産業なので、徹底的にこのような予防措置をとっている(スライド11)。

デンマークにおける動物用抗菌薬の使用状況

スライド12:ヨーロッパの家畜における抗菌薬の使用量イメージスライド12:ヨーロッパの家畜における抗菌薬の使用量 スライド13:ベットスタット(Vetstat)イメージスライド13:ベットスタット(Vetstat) スライド14: 抗菌薬使用に関する法律と使用量推移イメージスライド14: 抗菌薬使用に関する法律と使用量推移 スライド15:抗菌薬のイエローカード制イメージスライド15:抗菌薬のイエローカード制 スライド16:用量別血清中エンロフロキサシン濃度イメージスライド16:用量別血清中エンロフロキサシン濃度

 EUでは毎年、抗菌薬の使用量の報告義務が課せられている。こちらは2014年の数字(スライド12)。デンマークを含めた北欧各国では豚の生産量に比べると抗菌薬の使用量は比較的少なく、南ヨーロッパでは使用量が多いといえる。デンマークでは、農場で医薬品を使用するには、獣医師と毎年契約を結ばなければならず、当局が各農場の担当獣医師を把握している。また、獣医師は少なくとも2カ月に1回は農場内視察をしなければならない。35日を超えてまだ患畜が存在する場合には、新たに処方箋をもらう必要がある。全て法律で定められていて、他国と比べてかなり規制が厳しい。

 こういった薬剤使用履歴を記録していくために、デンマークでは全国的なデータベースを2004年に作成した(スライド13)。ベットスタットと呼ばれるもので、抗菌薬の使用を必要最小限にするためでもある。どの種の動物に対し、何をどう処方されたのかなど、全て記録に残るようになっていて、農場や担当獣医師のほか、当局もアクセスでき、抗菌薬の使用量が多い農場のモニターを行っている。

 全てのEU加盟国では、ヒトあるいは家畜の耐性菌の発生状況について、2003年に作られたDANMAPと呼ばれるプログラムで年次報告されている。デンマークの状況について見ると、豚での抗菌薬の使用が最も多いことが分かる。法律により、獣医師は1995年から医薬品の販売に加え、抗菌剤の予防的な使用も禁止され、2000年には成長促進目的の抗菌剤も使用できなくなった。2003年には臨床効果の高いフルオロキノロン系抗菌薬について、重篤な症例に使用を限るべきとの理由から使用制限が決定された。それでも抗菌薬の使用量が増加したため、イエローカード制度が2009年に導入された。その後、抗菌薬のタイプによる課税の差別化も始まり、スペクトラムの狭いペニシリンなどの税金が安くなった。2014年には、政府が強制的にラボでの1年に1回の検査を義務づけ、定期的な抗菌薬の使用には病原体の存在、抗菌薬の感受性の有無等を文書化する規制がしかれ、抗菌薬の使用規制が年々厳しくなってきている(スライド14)。

 EUでは、抗菌剤のより適切な使用のために、1日100頭あたりどれだけの治療をしたかの理論値を出すADD(Animal Daily Doses)という指標が使われている(スライド15)。この指標を基に許容限界値(閾値)が算出され、超えるとイエローカードが出されるようになった。その数値は年々、厳しくなっていて、2015年には母豚で4.3頭、離乳豚で22.9頭、肥育豚で5.9頭に設定され、これを超えると、獣医師は行動計画を立て、9カ月以内に状況を変えなければならない。14日毎の獣医師の訪問・診療、4カ月に1回の新たなラボで検査を行って、1年間、閾値を下回った状態が続いてもさらに1年間、14日ごとに獣医師の訪問を受け、8カ月に1度ラボでの検査を受ける。全く問題がない状態が1年経過すると、ようやく通常の獣医師訪問と検査の頻度に戻る。農場にとっても非常に大きなコストがかかることになる。ここまで厳格な方法をとっているのはデンマークだけである。この制度が始まってから抗菌薬の使用量が22%減少し、豚の生産頭数が10%増加した。

 抗菌薬は、全群もしくはセクション全ての豚に飲水経口投与する方が簡単で、生産者にも好まれているが、十分な血漿中および組織中濃度を得ることによる、より確実な臨床効果と耐性菌発現を減らすために、政府は個体ごとの注射を推奨している。大切なのは、最小発育阻止濃度(MIC)だけではなく突然変異株抑制濃度(MPC)も超える濃度を投与することで、耐性菌残存リスクを極力減らすことである。様々な濃度でバイトリル注射液を投与した研究では、1回投与量が2.5mg/kgでは有効成分であるエンロフロキサシンがMPC以上のレベルである時間が短く、理論的に不十分であった。しかし5mg/kgや7.5mg/kgの場合には、MPCを長時間にわたって超えていて、理論的には耐性菌残存リスクを回避できると考えられた(スライド16)。臨床効果に加え、耐性菌を考える上でもバイトリル注射液は非常に優れた製品だと言える。

バイトリル注射液によるAPPの撲滅

スライド17:アクチノバシラス プルロニューモニエ(APP)イメージスライド17:アクチノバシラス プルロニューモニエ(APP) スライド18:APP撲滅トライアル 農場概要イメージスライド18:APP撲滅トライアル 農場概要 スライド19:APP撲滅トライアル結果 – 死亡率:結果イメージスライド19:APP撲滅トライアル結果 – 死亡率:結果 スライド20:APP撲滅トライアル結果 – 抗菌薬の使用量イメージスライド20:APP撲滅トライアル結果 – 抗菌薬の使用量

 APPによる胸膜肺炎は非常に重篤な症状を呈する疾病で、ヨーロッパでは15の血清型が存在している(スライド17)。デンマークではそれほど深刻ではないものの、ヨーロッパでは多くの豚群が感染していて、高い死亡率につながっている。発病率、死亡率は経時的に大きく変動することもあり、多くの抗菌薬が使われイエローカードが出されることもある。従ってAPPを撲滅し、抗菌薬を使わなくても済む状況を作らなくてはいけない。

 撲滅について、一般的には3つの原則がある。1つめはトータルデポピュレーション。全個体をアウトし、洗浄・消毒をして新しい豚を入れるが、非常にコストがかかる。2つめが検査と排除。しかし成功率はそれほど高くない。3つめがパーシャルデポピュレーションである。戦略的な薬物療法を組み合わせ、さらにSPF群からの入れ替えを行うもので、デンマークではよく行われている。この方法なら生産ロスを減少でき、かつ遺伝形質を保存できる。

 パーシャルデポピュレーション(薬物療法を組み入れた)によるAPP撲滅の成功率は一般的に50%以下と、それほど効果的と思われていない。しかしこの撲滅プロセスで使用する抗菌剤として、マクロファージ内への高い浸透性、バクテリアの酸化プロセスと相互作用のあるバイトリル注射液(エンロフロキサシン)は、スカンジナビアでは非常に有効性が高い。他剤であればAPPが扁桃腺内、さらには環境中にも残ってしまうが、バイトリル注射液(エンロフロキサシン)にすれば成功率が高まることが分かってきた。

 撲滅の手順として、まず30日前までにAPPワクチネーションを終わらせ、免疫をつけておき、4週間は分娩がない状況にする。そして豚の移動がない状況下で、1日目、4日目にバイトリルを注射し、3カ月間は新規入れ替えを行わない。

 APPは空中感染するため、他の農場と少なくとも500m、できれば1km以上離れている方が良い。繁殖豚についてはワクチンの接種を2回行い、離乳、育成、肥育豚の淘汰を行う。そして4週間は分娩をさせず、5mg/kgのバイトリルの注射を実施する。

 撲滅するためには1年間にわたって、母豚の血液検査、臨床症状の検査を行う。以前の観察期間は6カ月間だったが、それでは十分ではなかった。100頭中1頭の母豚のみAPP陽性の場合でも感染が容易に広がるので、臨床症状だけでなく、各種の検査を組み合わせて注意深く観察しなければならない。こういった方法により、75%の農場撲滅成功率を達成できた。

 2012年から2014年までの結果をお伝えする(スライド18)。最初は全農場で成功したわけではない。2型、6型が残っていた農場もあったが、他の農場は全て撲滅できた。APPフリーとなった農場の死亡率について、PRRSの問題があったNo.9の農場は別として、離乳豚も肥育豚も減少した(スライド19)。抗菌薬の使用量は、さらに良い結果となっている(スライド20)。2型と6型を撲滅できた農場では、離乳豚で95%、肥育豚で50%減少。もうイエローカードのリスクもない。6型が残っている農場でも、離乳豚で39%も削減できている。2型の感染が続いている農場では、離乳豚については128%と増加しているが、肥育豚については56%と減少している。APPが撲滅できれば、1年後、あるいは2年後に抗菌薬の使用量を大きく削減できることが明らかとなった。

まとめ
  • デンマークでは、原種豚、種豚の100%、母豚の78%がSPFシステム内で生産され、農場の内部・外部の高いバイオセキュリティレベルを維持している。
  • 豚の輸送や貿易についてもSPFのステータスなどをしっかり確認し、トラックを国境で徹底的に洗浄・消毒して細菌やウイルスの侵入を防いでいる。
  • 個々の農場および畜種ごとの抗菌薬使用に関する強制的なモニタリングが2000年から行われていて、国内の養豚場における抗菌薬の使用規制閾値レベルが定義されている。
  • 抗菌薬を多用している農場にはイエローカードが出され、様々な措置が講じられる。
  • 様々な取り組みの結果、デンマークでは抗菌薬使用量が22%減少したのに対し、豚の生産頭数は10%増加した。
  • 管理とピッグフローを一時的に変更するとともにバイトリル注射液を用いたところ、APPの撲滅に対し高い成功率をもたらした。
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