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2009年12月14日

【レポート】抗菌薬適正使用の新たな指標を提示MPC理論について、カナダのジョセフ・ブロンドー博士が酪農学園大学で講演されました。

11月19日、カナダのジョセフ・ブロンドー博士が最適抗菌剤療法について講演されました。これは酪農学園大学とバイエル薬品 動物用薬品事業部(AH)の共催によるもので、獣医師を目指す学生を対象にした海外のオピニオンリーダーによる講演の開催はバイエルにとって初の試みとなりました。

ジョセフ・ブロンドー博士ジョセフ・ブロンドー博士

「少ない量でだらだらと投与するのは良くない」。抗菌薬治療ではよくこの言葉を耳にしますが、それについて、これまでデータやガイドラインで示したものはなく、臨床現場での治療はほとんど経験に頼って行われているのが実情でした。今回、抗菌薬の濃度を軸としたひとつの指標がカナダの臨床細菌学者、ジョセフ・ブロンドー博士から示されました。

ブロンドー先生はin vitro(試験管内での実験)の研究で各種抗菌薬の濃度と細菌の増殖の関係を調べ、抗菌薬治療で指標とされるMIC濃度(最小発育阻止濃度)では感受性菌のみ除菌し、耐性変異株については除菌できないどころか、かえって選択して増殖を招いてしまうため、抗菌薬治療では、MPC濃度(変異株増殖抑制濃度)を用いるべきだという理論を導き出しました。

PK PDグラフPK PDグラフ

MPC理論は抗菌薬の高用量投与を推奨しているように見えますが、キノロン系抗菌薬エンロフロキサシン(製品名:バイトリル(バイエル薬品))は通常の投与量で既にMPCの濃度に達していることが、ブロンドー先生から述べられました。また薬物動態を見ると、エンロフロキサシンはすばやく最高血中濃度に達し、半減期は短いため、耐性菌をうみだす危険なMSW(変異株選択領域)にとどまる時間が少ないことがブロンドー先生の研究でも示されています。MPC理論は治療ガイドラインに取り入れられつつあります。

サインを求める学生サインを求める学生

多くの学生や教授、講師、臨床獣医師が聴講したこの講演はほぼ満席となる盛況ぶりで、講演後の活発な質疑応答の後、ブロンドー博士が執筆した『STAT(牛呼吸器病の抗菌剤療法を最適化するための戦略)』にサインを求める学生たちの嬉しそうな姿が見受けられました。ブロンドー先生は、11月20日には東京で獣医師を対象にしたシンポジウムでも講師を務められました。

講演こぼれ話

ブロンドー博士が研究に用いたシャーレの数さまざまな抗菌薬とさまざまな細菌、そしてさまざまなMPC濃度を組み合わせての殺菌結果を得るために膨大な数の実験が行われたそうです。例えば、牛の肺炎の起因菌のひとつである M.haemolytica を10の8乗個用いて行われた4種の抗菌薬(Enrofloxacin、Florfenicol、Tilmicosin、Tulathromycin)の実験だけでも、3反復で3000ものシャーレ(ペトリ皿)が必要だったとのことです。

【MPC理論について】

MPC(Mutant Prevention Concentration)とは 抗菌薬の突然変異株増殖抑制濃度。感受性菌(抗菌薬に感受性を示す菌)についても、耐性菌(遺伝子の一カ所に変異を生じた耐性菌)についても、増殖を阻害する濃度。耐性菌の選択的増殖が起こらない濃度。

MSW(Mutant Selection Window)とは 変異株選択領域。感受性菌は増殖阻害されるが、遺伝子の一カ所に変異を生じた耐性菌は増殖阻害されない濃度の領域(幅)。耐性菌の選択(増殖)が加速される「危険領域」を指す。

MPC濃度による耐性変異株の防御理論 AUC(血中濃度曲線下面積)を見た場合、MPC(Mutant Prevention Concentration)の最低濃度とMIC(Minimal Inhibitory Concentration)の間のMSW(Mutant Selection Window:変異株選択領域)の面積が狭いほど変異株の増殖は抑えられるとするのがMPC理論。これまで、動物の病原菌とMPCについての調査研究はわずかに報告されているだけだった。

【基本的な説明】

細菌と感染症 微生物(細菌)には、人間や動物(宿主)の体に常に存在していて病原性を示さないもの(常在菌)や、宿主に感染して感染症を引き起こすものがあります。菌がお互いに牽制し合い、ある特定の種類の菌が異常に増殖しない、バランスが取れている状態であれば、また、宿主が通常の免疫力を維持している状態(日和見感染のない状態)であれば、宿主の健康は保たれます。

突然変異と耐性獲得 細菌は抗菌薬に暴露されると排除ストレスがかかります。しかし、細菌は生き残りをかけて遺伝子に突然変異を起こし、抗菌剤に対する耐性を持つことがあります。これが細菌の耐性獲得です。抗菌剤に暴露しない自然な状態でも突然変異は常に起きていて、避けられるものではありません。抗菌剤治療では、突然変異の「増殖」を抑制することが重要となります。なぜ異常な増殖が起こるのか抗菌薬に感受性のある菌だけが排除された菌叢では、耐性を獲得した特定の菌が他の菌からのストレス(抑制)から逃れて増殖しやすくなるためです。MSW理論では、MPCに満たないMIC濃度に長い時間、細菌を暴露させることが耐性菌増殖を招くことにつながり、危険であるとしています。

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